娘が結婚をして、家を出て行った。
すぐ近くに住むということもあり、それほど寂しいとも思っていなかったが、昨日妻が言ったひと言でなんだか急に悲しくなってしまった。
「もう、待っていても帰ってこないんだね」
旅行代理店に勤めていて帰宅時間が不規則な娘のために、妻はいつも夕飯を用意して待っていた。急な誘いで仕事帰りに飲みに行ってしまうこともあって、たびたびそれは手をつけられることなく、翌日僕の朝食になっていたけれど。
僕は朝早めに仕事をするのが習慣になっていたので、さっさと寝てしまう。夜中にトイレに起きると、目をしょぼしょぼさせてひとりぽつんとテレビを見ている妻の姿があった。作り置きして先に寝たらいいじゃない、というと、暖かいものを食べさせたいから、これとこれは帰ってきてからつくるんだといっていた。
唐突に寂しいと思ったのは、もうそうやって愛情を注ぐ機会が妻にはなくなってしまったからだ。たくさんの思いをよせて、何か返ってくることなどは望まず、27年の間一日も欠かすことなく母であり、子であったのだから。